研究概要 |
ストレスに対する生体反応は全身機能と深く関わり,疾患の原因となる可能性が示唆されている.ストレスに起因すると考えられる歯ぎしりなどのブラキシズムは,顎関節症の原因として重要視されているが,その発現意義については未だ不明な点が多い. 我々はこれまで,ストレスと咬合,全身機能の関係について様々な方向から検討を行ってきた.その中で,前方部にプラスチック板を差し込んだ円筒にマウスを閉じこめた拘束ストレス実験において,実験中にマウスはプラスチック板を噛み続けていることを発見し,噛みしめ動作が精神的ストレスに対する生体反応を低減,緩和する一種の防御反応としての役割を有しているとの仮説を立てた.これをふまえて今年度は,拘束下でプラスチック板を噛み続けているマウスと,プラスチック板に届かないよう尻尾を固定してプラスチック板を噛めないマウスにおけるストレス反応の違いを検索する目的で,ストレスの指標として血中コルチゾール濃度を用いて比較検討した. その結果,同じ拘束ストレスでも,プラスチック板を噛んでいたマウスは噛んでいないマウスに比べて血中コルチゾール濃度の上昇が低かった.また,抗うつ薬であるフルオキセチンを投与し,噛める状態で拘束した場合,プラスチック板を噛む量,血中コルチゾール濃度ともに減少した.これは,抗うつ薬が中枢に作用してストレスが軽減されたため,噛むことによりストレスを軽減する必要が減少したことを示唆していると考えられる.これらの実験結果より,噛みしめ動作が精神的ストレスに対する生体反応を低減,緩和する可能性が確認された.
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