研究概要 |
チタンおよびチタン合金の臨床応用が普及してきているが,チタンインプラントや義歯床の着色や変色のトラブルも散見される。原因として炎症性細胞からの過酸化物や齲蝕予防剤のフッ化物が報告されている。そこで,本研究では過酸化水素およびフッ化ナトリウム水溶液中でのチタンおよびチタン合金の変色挙動について調べた。 Grade2-Ti, Ti-0.15Pd, Ti-6Al-4V, Ti-10Cu, Ti-20Cr, Ti-50at%Ni, Ti-7Nb-6Alの各チタン合金板(14×14×1mmまたはφ20×1mm)を用い鏡面研磨したものを試料とした。 過酸化水素を含む溶液は0.1mol/1 H202+0.9%NaCl(pH5.5,codeH202)とし,フッ化ナトリウムを含む溶液は0.2%NaF+0.9%NaCl(pH3.8 with lactic acid, code NaF)とした。 浸漬試験を行った後に,色彩計(MCR-A,ミノルタ)を用いることにより浸漬前後のL*a*b*値を測定すると共に色差(ΔE*)を算出した。また,過酸化水素を含む溶液では168時間後の浸漬試料,フッ化ナトリウムを含む溶液では1時間後の浸漬試料について,溶液中の元素濃度をICP(Vista-MPX,セイコー)で測定し,各元素の溶出量を測定した。 結果として,チタンおよびチタン合金の変色傾向と溶出量は過酸化水素を含む溶液とフッ化ナトリウムを含む溶液で異なり,Ti-Ni合金は過酸化水素を含む溶液中で色差も溶出も大きいことから変色の原因は主に腐食によると考えられ,Ti-6Al-4V合金の場合は溶出量が少ないにも拘わらず色差が大きいことから腐食よりも酸化膜形成による変色の要因が大きいと考えられた。フッ化ナトリウムを含む溶液中ではTi-20Cr合金を除く全てが腐食に伴なう変色と考えられた。 また,チタンの電気化学的特性に及ぼすフッ化ナトリウム濃度及びpHの影響を詳細に検討すると共に,これらの電気化学的特性に及ぼすアルブミンの影響を検討した.その結果,チタンの腐食はアルブミンの存在で抑制され、NaF溶液に添加したアルブミンの濃度が高くなるに従ってチタンの耐食性は向上する傾向にあることが明らかになった.従って,チタンの腐食挙動にはアルブミンの存在が大きく影響することが明らかとなり,チタンの耐食性を評価する場合,タンパク質の有無が重要な因子であることが示唆された.
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