申請者は、先にN-メタクリロイルグリシン(NMGly)をセルエッチングプライマーの酸性モノマーとして歯質に作用させた場合のコンポジットレジンの接着強さおよびNMGlyのカルボキシル基と歯質との相互作用の詳細について、^<13>C NMR法で検討してきた。その結果、NMGly水溶液を歯質に作用させると、象牙質には20MPa以上のレジンの接着強さが得られたが、NMGly分子内カルボキシル基によるエナメル質の脱灰には限界があるため、エナメル質には16MPaであった。 本研究では、エナメル質に対するレジンの接着強さを向上させることを目的として、N-メタクリロイル-アミノエチルホスホン酸(NMEP)を新規に合成し、NMEPをNMGly水溶液に添加したセルフエッチングブライマーを歯質に作用させ、NMEPの添加量が歯質への接着強さにおよぼす影響および歯質とNMGlyまたはNMEPの相互作用の詳細について検討した。 その結果、エナメル質に対するレジンの接着強さはNMGly水溶液に対するNMEPの添加量が0.7mmol以上では約16MPaから約24MPaに上昇した。しかし、象牙質に対するレジンの接着強さはNMEPの添加量が1.4mmolと高くなると、約23MPaから16MPaと大きく低下することがわかった。また、NMEPのリンに結合し、pKaが1.8の水酸基は、NMGlyのカルボキシル基より優先的に歯質のカルシウムと反応し、NMGly水溶液に添加したNMEPの大部分は歯質を脱灰し、その結果、カルシウム塩を形成することがわかった。 以上の結果から、NMGly水溶液にNMEPを添加すると、エナメル質に対するレジンの接着強さを大きく向上させることがわかった。しかし、NMEPの添加量が多くなると象牙質への接着強さが低下するため、NMGly水溶液に対するNMEPの添加量は0.7mmolが最適と考えられた。
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