研究概要 |
変形性顎関節症の病態のメカニズムは不明な点が多く,その研究も外科的に変形性顎関節症様症状を付与する動物モデル実験によるもののみである.我々は,変形性顎関節症の病態のメカニズムの一端を探求するために,老化現象の一つとして自発的に同症状を発症する老化促進モデルマウス(SAM)の病態と関節軟骨の主要成分であるglycosaminoglycan(GAG)の局在との関係を検証した.変形性顎関節症様症状を発症するSAMP8は,7ヶ月齢で顎関節軟骨に膨潤を認め,10ヶ月齢で関節軟骨表面に亀裂を生じた.また,変形を生じないとされている膝関節において,関節軟骨に異常所見は認められなかったものの,成長板は消失し,関節頭が長軸方向に若干伸長していた.一方,コントロールマウスであるSAMR1は,顎関節において関節軟骨の膨潤を認めるものの,関節軟骨表層に亀裂を生じず,また膝関節に何ら異常所見を認めなかった.これらの関節軟骨におけるchondroitin-4-sulphate(C4S)とkeratan sulphate(KS)の局在はそれぞれ特異的であった.C4Sは,顎関節,膝関節を問わず,両マウスを問わず,関節軟骨層および成長板軟骨層全体の細胞外基質と細胞表層に広く分布していた.一方,KSは,いずれのマウスにおいても顎関節軟骨の表層の基質のみに局在し,膝関節軟骨および成長板において認められなかった.変形性顎関節症の初期症状である関節軟骨表層の亀裂部分周囲には,C4S,KSともに多く分布していた.以上より,GAGは顎関節および膝関節の関節軟骨においてそれぞれ特異的な役割を担っている可能性が推測され,変形性顎関節症においては特に2種類のGAGともに強く病巣部に働きかけている可能性が示唆された.
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