研究概要 |
昨年度の本研究結果から,変形性顎関節症により膨潤し,かつ亀裂を生じた関節軟骨部分にSmall leucine-rich proteoglycan (SLRP)の糖鎖であるchondroitin-4-sulphateとkeratan sulphateが多く局在することが判明した.本年度は,変形性顎関節症を呈した関節軟骨下の骨髄組織中におけるSLRPの遺伝子発現パターンを検証することにより,主要な骨基質蛋白であるSLRPと変形性顎関節症との関連を追求した.ターゲット分子は,decorin (DC),biglycan(BG),fibromodulin(FM)とlumican(LM)の4種類のSLRPおよび骨芽細胞の分化マーカーであるtype I collagen(COL)とalkaline phosphatase(ALP)とした.変形性顎関節症様症状を呈するSAMP8の下顎骨においては検討した全ての4種類のSLRPの遺伝子発現を認めたが,若干の関節頭の変形を呈した大腿骨においてはFMとLMの発現が検出されなかった.また,2種類の分化マーカーも下顎骨では発現していたが,大腿骨ではALPの発現が認められなかった.一方,変形性関節症を呈さないSAMR1の下顎骨および大腿骨でのSLRPと分化マーカーの遺伝子発現パターンはSAMP8のそれらと類似していたが,大腿骨でのbiglycanの発現がSAMP8とは異なって検出されなかった.以上より,下顎骨と大腿骨間および骨の表現型が異なる大腿骨間で,SLRP遺伝子の発現パターンが異なることが示された.さらなる検証を必要とするが,両遺伝子発現パターンが骨質を反映する可能性が示唆され,軟骨組織のみならず骨組織の骨基質蛋白の性状が変形性顎関節症に寄与している可能性が推測された.
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