研究概要 |
本研究は口腔外科手術に対して,アデノシン三リン酸(ATP)製剤を投与することによって,臨床的にどのような抗炎症作用が得られるかを検討することが,目的である。本年度は,口腔外科手術患者にATP製剤を投与した時の,術後の炎症所見に及ぼす影響と,それらと血中Tumor necrosis factorα(TNFα),Interleukin-6(IL-6),Interleukin-10(IL-10)レベルとの相互関係を調べた。さらに,ヒト末梢血単核球に対する直接的な影響を調べるために,in vitroでヒト末梢血単核球にアデノシンを加え,12時間インキュベートした時の,TNFα,IL-6,IL-10産生量および遺伝子(mRNA)発現への影響についても検討を加えた。 口腔外科手術患者に対して,ATP製剤を10μg/kg/minで6時間持続静脈内投与した群と,ATP製剤を投与しなかったコントロール群について,炎症所見に関して比較した結果,ATP製剤投与群においては,術後の血清C蛋白反応,術後の術部痛が軽減する傾向がみられたが,統計学的有意差は認められなかった。また,ATP製剤投与群で術後の血中TNFαレベルの有意な低下がみられたが,炎症所見との連動は認められなかった。 ヒト末梢血単核球に対するアデノシンの直接的な影響については,10μMの濃度において,LPS(10ng/mL)刺激下でのTNFαおよびIL-10の産生量は有意に抑制されたが,IL-6産生量には影響はみられなかった。さらに,遺伝子発現については,TNFαおよびIL-10においては,同様に抑制傾向はみられたが,有意差は認められなかった。IL-6においては影響は認められなかった。 以上の結果より,口腔外科手術に対して,ATP製剤を投与することによって,血中TNFαレベルが抑制されることが明らかになり,手術に伴う炎症反応を抑制する可能性が示唆された。しかし,明らかな炎症所見への影響は認められなかったこと,他のサイトカインとの連動がみられなかったこと,さらに,in vitroでの結果とは異なることから,ATP製剤の抗炎症作用は複雑であると考えられた。
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