研究概要 |
mdm2はp53と結合して,p53の転写活性を阻害するが,このmdm2はp53の分解を促進することが明らかとなり,正常p53の分解によって癌抑制能を低下させるため、癌遺伝子としても機能していると考えられている.また,mdm2タンパクの過剰発現は,p53を分解する癌遺伝子産物として働き,発癌過程に重要な役割を演じていることが推定されている.以上の点に着目し,昨年度は正常歯肉,口腔扁平苔癬,口腔の白板症などのホルマリン固定・パラフィン包埋材料から切片標本を作製し,mdm2とp53のタンパクに対する特異抗体を用い,ABC法で免疫染色を行った.今年度は扁平上皮癌例を被験対象として,mdm2とp53の免疫組織学的検討を行い,それらの発現意義と病態の関係を検索した. この結果,口腔扁平上皮癌では,p53は,腫瘍細胞の核のみに活性を示した.mdm2は腫瘍細胞の核に活性が認められ,特に有極細胞層を中心に活性を示した.また,間質細胞にも陽性所見が見られた.白板症における間質細胞のmdm2陽性率は,非癌化群と癌化群では,各25.8%と48.0%で,癌化群の方が高値を示した.昨年の結果と合わせて各種因子の発現様相を総合すると,正常歯肉,白板症の非癌化群と癌化群,および扁平上皮癌になるにつれ,p53の発現率は増加した.また,mdm2は,正常歯肉での発現率が最も高く,各病変群間で相関関係は明瞭ではなかった. p14ARFはmdm2と結合してp53/mdm2/p14ARFからなる3量体を形成し,mdm2を不安定化することが報告されている.今後,p53の上流に位置する遺伝子産物であるp14ARFと下流に位置する遺伝子産物のmdm2を指標として,これらの発現様相が癌化や腫瘍細胞の増殖に及ぼす影響を,さらに検討する予定である.
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