研究概要 |
本研究は,加齢により変化する中枢神経系の変化が,全身麻酔薬によってもたらされる,眠り,覚醒にどのような影響を与えるかを検討する目的で行った.24時間連続運動解析システムを使用して、ラットの麻酔薬による眠り・覚醒を連続的・定量的に検討した。実験動物であるラットは、若年群(3週齢)と高齢群(12ヶ月齢)および超高齢群(24ヶ月齢)に分け,赤外線感受性のあるCCDカメラによる昼夜連続の運動量(移動量)の測定を行った。麻酔薬はケタミン(100mg/kg)を使用し、麻酔前日(24時間)を含めて、麻酔中、麻酔覚醒後(24時間)の全行動解析を行った。その結果,若年群、高齢群ともにケタミン麻酔の覚醒後の運動量が有意に多いことが分かった.また、ケタミンの麻酔覚醒後の運動量は、超高齢群では逆に認められなかった。この結果から、加齢に伴い、脳内のNMDA/cGMP/Nitric Oxideの活性が変化し、それが麻酔作用および麻酔覚醒時の反応の差に現れた可能性が大きいと考えられた。臨床では、65才以上の高齢者が全身麻酔を受ける際に、睡眠障害、術後譫妄の発生頻度が大きくなることから、加齢による脳内伝達物質の変化と、麻酔薬による強制的な睡眠状態がサーカディアン・リズムの変化をきたし,術後の自然睡眠の眠り・覚醒までにも影響を与える可能性が示唆された。現在、グルタミン酸、GABA受容体拮抗薬などを使用して、メカニズムの解明のため詳細な実験を続行中であり、さらなる成果が期待できる。
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