研究概要 |
C57BL/6野生型マウスに発癌物質(4-NQO, Benzopyrene)を投与し、経時的に舌を採取して組織学的に検討するとともに、p53,Rb,および細胞周期関連遺伝子と蛋白の発現変化を検討した。また、同意の得られた口腔白板症症例についてATM, p53,およびMDM2の発現と上皮異形成との関連を検討し、癌化過程におけるp53非依存性経路の関与を検討した。 1 発癌物質投与により、舌粘膜上皮に角質層の肥厚,棘細胞の極性の乱れなどが見られ。経時的にそれらの変化が顕著になっていった。 2 発癌物質投与1週後にはp53およびRbの発現が増強されたが、3週以後にはp53の発現は減弱した。一方、p21は蛋白およびmRNAレベルで増強されていた。また、細胞周期促進因子であるCyclineD1およびCDK4の発現が経時的に増強された。 3 発癌物質投与によりp21の発現増強が認められるとともにRbの燐酸化の亢進が見られ、p53非依存性にp21が誘導されるかp21を分解するユビキチン-プロテオソーム系の異常が起きている可能性が示唆された。 4 口腔白板症では、上皮異形成が強くなるほどp53の発現が強くなるが、癌化するとその発現はやや減弱していた。また、ATMの発現と上皮異形成との関連は認められなかったが、MDM2の発現は上皮異形成の程度と関連し、さらに癌化すると高発現していた。MDM2はユビキチンリガーゼ活性をもちp53を分解することから、これらの結果と考え合わせるとMDM2はp53非依存性にも癌化過程に関与している可能性が示唆される。 以上の結果から、発癌の初期過程においてはp53依存性経路の関与が、それ以降ではp53非依存性経路が関与することが示唆された。
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