研究概要 |
軽度の脱灰したエナメルを筋肉内に移植すると骨様の石灰化組織が誘導される(Urist, 1971)。またHertvig上皮鞘の細胞により、歯根象牙質表面に分泌されるエナメル気質が,セメント芽細胞の分化を誘導する可能性が提唱された(Slavkin, 1976)。さらに、ブタエナメル基質の酢酸による粗抽出物は、歯根膜細胞の増殖と分化を促進し、歯周組織の再生を促進することが報告されてた(Hammerstrom, 1997)。そして、ブタエナメル基質粗抽出物であるEMDOGAIN(商品名)の歯周組織再生への臨床応用が、現在おこなわれている。したがって、「エナメル基質中に何らかの硬組織誘導能を示す生理的活性物質があること」は明かである。しかし、その生理的活性物質の正体は明らかにされていない。本研究の目的は、「エナメル基質中の生理的活性物質の分離、同定をおこなうこと」、「その生理的活性物質の歯周組織再生への応用を検討すること」の2点である。 EMDOGAINは、マウス骨髄由来のKUSA細胞の細胞増殖を促進し、アルカリフォスファタ活性を上昇させ、オステオカルシンやオステオポンチンの遺伝子発現を促進し、石灰化結節の形成を促進させた。この細胞はエナメル質中に存在する活性物質を同定するために有用な細胞であると考えられる。エナメルタンパクの一つであるアメロジェニンのリコンビナントタンパクを作製し、KUSA細胞に作用させたところ、石灰化結節の形成を促進した。したがって、EMDOGAIN中の有効成分がアメロジェニンである可能性が考えられるが、この点についてはさらに検討をおこなう必要がある。EMDOGAINをウシのアテロコラーゲンをキャリアーとしてラットの皮下および、ラット頭蓋骨の骨欠損部に埋入した。皮下に埋入した場合は、異所性の骨形成を誘導しなかったことから、EMDOGAINにはBMP様の活性はないと考えられる。頭蓋部の骨欠損部に埋入したEMDOGAINは、欠損部の修復を促進したことから、EMDOGAINには骨組織再生を促進する作用があることが推測される。
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