本研究では剛直な三環系架橋構造を土台とする不斉配位子の分子設計と合成を中心とする新規不斉触媒反応の開拓を検討した。この研究により当初の予想とはことなる構造の新規のキラルジアミノホスフィンオキシド配位子の開発に成功し、これを用いる効率的な触媒的不斉合成法を開拓した。 1.キラルジアミノホスフィンオキシド配位子の開発 入手容易なアスパラギン酸から出発し、分子内酸無水物を得、これからジアニリドへ誘導した。これを還元するとトリアミン誘導体が得られる。これと三塩化リンの反応で当初の目的の三環系不斉配位子のモデル化合物が得られるが、このものはシリガゲルにより精製を試みると分解し、キラルジアミノホスフィンオキシドを効率良く与えることが判明した。得られたキラルジアミノホスフィンオキシドはX線解析で5価のリン化合物であること確認され、リン原子上とアスパラギン酸由来の炭素上の二ケ所に不斉中心を有する。このものは空気中で極めて安定で取り扱い良好な結晶である。そこでこのキラルジアミノホスフィンオキシドの配位子としての潜在特性を研究した。 2.キラルジアミノホスフィンオキシド配位子を用いる不斉アリル位置換反応 我々はこのキラルジアミノホスフィンオキシドが互変異性化による3価のリン化合物への変換が可能なことからキラルリン配位子としての可能性を精査したところ、アリル位置換反応で高い不斉誘起能を有することを発見した。そこでアリル位置換反応の中で現在でも問題を残している4級炭素構築法に適用したところ高い立体選択性で反応が進行することが明らかになった。本方法はアリルアセテート類に対して200分の1量のパラジウム触媒を室温下に用いることで高収率、高エナンチオ選択的に目的物を得ることが可能である。また基質一般性も高く、従来報告されている類似の技術と比較して広範囲の基質に適用出来ることが判明している。
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