研究概要 |
本研究は、二十面体型ホウ素クラスター:カルボランの電子効果、球状の立体形状、疎水的分子表面の諸性質を利用して、反応化学と分子構築の化学に新しい展開をもたらすことを目的とする。本年度の研究により以下のような知見を得た。 1 カルボランは2つの炭素原子の置換位置により、o^-,m^-,p^-の3種の異性体が存在する。本研究者はo^-体の加水分解がm^-,p^-体に比べ、100倍以上の速度で進行し、しかも、生成物の立体が保持されることを見出している。本年度の研究で、他の溶媒を用いた加溶媒分解を行った。その結果、メタノール中では水中と同様な反応加速と立体の保持で反応が進行すること、酢酸中では反応速度が極めて遅く通常のSN1反応で進行すること、アミンとの反応ではカルボラン環からのホウ素1原子の脱離が起こる等、求核性の強弱が反応に大きな影響を及ぼすことを見出した。また、芳香環上あるいはカルボラン環上C原子、B原子上の置換基効果も含め、系統的反応速度解析を行い、カルボラン環の隣接カルボカチオンに対する電子効果の評価と反応機構の解明を行い、クラスター上ホウ素原子と求核剤の相互作用がこの特異な反応をコントロールしていることを見出した。 2 カルボランの炭素原子の置換位置及び疎水性とN-メチル化ウレア・アミド基のシス型優先性を利用して、分子内芳香族多層構造あるいは大環状の新規類縁体の構築に成功し、結晶化により、その構造を明らかにした。
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