研究概要 |
グルタミン酸が中枢神経系の興奮性神経伝達を担う神経伝達物質として認知されて以来,グルタミン酸受容体の機能研究が活発に展開され、現在では,単に興奮性神経伝達ばかりではなく,記憶や学習といった脳のより高次な機能にもグルタミン酸が関与しているものと考えられている。また、脳梗塞のように脳の血流が何らかの原因で一時的に止まる虚血状態の場合や、テンカンの発作のような異常なストレスが発生した場合の脳神経細胞の破壊にもグルタミン酸が関与していると考えられている。しかし、このような脳神経系とグルタミン酸との関わりは完全に明らかにされているわけではなく,脳神経系の機能を分子レベルで解明するためにも,グルタミン酸受容体作用物質の精密合成化学に基づく系統的な研究が切望されている。さらにまた、グルタミン酸受容体作用物質の研究は、アンタゴニストの構造デザイン等に関連して,脳疾患治療薬開発に繋がる研究として大きな関心がもたれている。以上の点を踏まえ,今回研究対象として,グルタミン酸受容体アゴニストであるダイシハーベインとアンタゴニストであるカイトセファリンをとりあげた。両天然物は、いずれも最近単離されたばかりであり、これまでにない特異な構造をもつグルタミン酸受容体作用物質として大きな注目を集めている。 ダイシハーベインの合成に関しては、まず、2-ヨードアリルシランとアラニン有機亜鉛化合物とのクロスカップリング反応によって,官能基化されたアリルシランを合成した。いっぽう、グルコースから出発して、必要な置換単位を全て備えた環状アセタールを立体選択的に合成した。現在これらのカップリングを検討中である。また、カイトセファリンに関しては、L-グルタミン酸からキラルα-シロキシピロールを合成し、L-セリンから誘導したガーナーアルデヒドとのカップリングについて検討した。現在のところ、カップリング体を収率良く得る反応条件を見いだしておらず,この打開が当面の課題である。
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