研究概要 |
筆者らは,ルイス酸存在下,メルカプト基を有するキラルアルコールを不斉反応剤とするα,β-不飽和ケトンの不斉還元反応を開発してきた。本反応はMichael付加とそれに続くMPV還元とが連続した反応であり,不斉プロトン化と1,7-ハイドライド転位を含む新規な不斉反応である。本反応では,光学活性なメルカプトアルコールがMichael付加で付加して鋳型として働くため,付加生成物には立体的に規制がかかる。その結果として,Michael付加に続く一連の反応は立体的に制御された形で進行し,特にα,β-二置換ビニルフェニルケトンを基質とした場合には3連続不斉炭素の立体をコントロールすることができた。また,α,β-二置換のビニルアルキルケトンを基質とした際の立体選択性は添加物のpKaに強く影響を受け,pentafluorobenzoic acid(pKa 1.7)の添加により飛躍的に向上することを見出した。次に上述反応を利用して,フェロモンとして多くの化合物が単離されているγ-ブチロラクトンの一般的合成法を確立した。具体的には,ジメチルクロロアルミニウム存在下,β-(p-methoxy)phenyl-α-methylvinyl phenyl ketoneにキラルメルカプトアルコールを基質としてMichael付加,不斉プロトン化,それに続くMPV還元を行い,得られた生成物からRaney Niで不斉反応剤を除去した。最後にp-メトキシフェニル基をルテニウム酸化でカルボキシル基へと誘導し,ブチロラクトンを得ることに成功した。さらに本合成ルートをβ-(p-methoxy)phenyl-α-methylvinyl butyl ketone,β-(p-methoxy)phenyl-α-methylvinyl pentyl ketoneに適用し,香気成分であるウイスキーラクトンおよびコニャックラクトンの合成にも成功した。
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