研究概要 |
転写反応は、開始、伸長、終結の過程を含む。伸長過程は、開始に続いておこるRNAポリメラーゼIIによるmRNA鎖の合成反応であるが、単調な酵素反応ではない。特徴的なDNA配列やDNA障害部位などで停止し、巨大な遺伝子においては、完全長のmRNA転写に15〜16時間を要する。このために、真核細胞には、転写伸長を制御する伸長因子が存在しその異常によって様々な疾患病態が起こることも知られている。我々は、伸長因子エロンガンについて、当該研究期間に以下の成果を得た。 (1)エロンガンAノックアウトES細胞を作成しその解析を行った。エロンガンAノックアウトマウスは生まれていないことから胎生致死であると考えられる。そこで、エロンガンA-/-のES細胞を作成し、この細胞は著しい増殖阻害を示すこと、多倍数体の染色体をもつことを見い出した。さらに、マイクロアレイの解析からエロンガンA-/-の細胞では、2〜4%の遺伝子発現が変化を示すのみであることから、generalな転写伸長因子というより細胞増殖に関わる特異的遺伝子制御に関わる可能性が示唆された。このことは、エロンガンAがVHL病などの発癌機構に関与することの分子基盤になっていることを示唆するものと考えられる。 (2)新規な転写伸長因子エロンガンAファミリー、エロンガンA3を同定した。A3は、A、A2に比べ小さく546個のアミノ酸から構成される。N-、C-末にエロンガンA, A3と相同性を示す領域があり、それぞれ、転写伸長因子SIIホモロジー領域、転写伸長活性領域に対応していた。リコンビナントA3を用いた解析から、A3が、RNAポリメラーゼIIによる転写伸長活性を促進できること、エロンガンBCサブユニットと結合するが、それによる転写活性化は示さないことなどA3特有な性質を持っていた。さらに、A3はA同様各組織にUbiquitousな発現を示したが、精巣特異的な発現を示すA2とは異なっていた。また、A3がAによる活性を抑制できることが明らかとなった。以上のことより、A3とAは、同じ組織に共存していて互いの活性制御を行っている可能性がある。
|