研究概要 |
クレチン症は,早期発見,早期治療により重篤な合併症である精神遅滞を防止できるため,マススクリーニングの重要な対象疾患である。クレチン症の原因の80〜90%は甲状腺形成異常であるが,本症の原因遺伝子は,ほとんどの症例で不明である。甲状腺形成異常によるクレチン症の原因遺伝子として可能性のある遺伝子として,TSH受容体,TRH受容体,TTF-1転写因子,PAX8転写因子,TTF-2転写因子などが考えられてきたが,これらの遺伝子が病因となる症例は非常に少ない。そこで,発現の組織特異性が高く,しかも,甲状腺原基が移動中の時期に発現が増加するTTF-2転写因子により発現が調節される遺伝子群を同定することにした。正常TTF-2およびforkhead domainに一塩基置換を挿入し,転写活性を1/2にした変異TTF-2遺伝子をG401腎細胞株に導入し,株化した。コントロール細胞としては,TTF-2発現はなくネオマイシン耐性のみを獲得した細胞株を用いた。既知遺伝子のcDNAアレイ(Atlas3.6 array;3528遺伝子)とサブトラクションPCR法にて作成したcDNAライブラリーより得た2224クローンをマイクロアレイにてスクリーニングした。発現レベルの差の大きかった遺伝子は配列を同定した後,定量的RT-PCR法で発現レベルの差を確認した。また,同様に組織特異性を定量的RT-PCR法で検討した。成人での甲状腺組織特異性には欠けるが,TTF-2による発現増加が600倍以上である遺伝子,IGFBP7やPIGPC1などは,甲状腺原基に特異性があると思われた。組織特異性が比較的高くTTF-2による発現増加が5倍以上である遺伝子にCOL11A1などがある。さらに,組織特異性が高く,しかも発現増加が200倍以上ある未知の遺伝子も発見された。
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