研究課題
クレチン症は、早期発見、早期治療により重篤な合併症である精神遅滞を防止できるため、マススクリーニングの重要な対象疾患である。クレチン症の原因は80-90%が甲状腺形成異常症であるが、甲状腺形成異常によるクレチン症の原因遺伝子はほとんどの症例で不明である。TTF-2遺伝子は発現の組織特異性が高く、しかも、甲状腺原基が前頚部内を移動している時に特異的に発現が増加するため、TTF-2遺伝子に発現制御される遺伝子が原因遺伝子である可能性は高く、そのような遺伝子が甲状腺の発生、分化を調節していると考えられる。そこで、当研究では、TTF-2遺伝子を培養細胞に発現させ、TTF-2遺伝子に発現制御される遺伝子をマイクロアレイ法と定量的RT-PCR法にて同定することを目的とした。その結果、23の遺伝子がTTF-2発現細胞で発現が増加することが示された。次に、ヒト17組織での各遺伝子の発現を定量的RT-PCR法で検討した。組織特異性は高くないが、TTF-2による発現増加が大きい遺伝子がある反面、甲状腺に組織特異性が高く、しかもTTF-2で著明に発現増加する遺伝子が同定された。その中の一つは全く新規の遺伝子T1560(AB111913)であり全長のクローニングの結果、この遺伝子は染色体8q11-13上にあり、71残基のアミノ酸より成る蛋白をコードしており、アミノ酸組成より可溶性蛋白であることが予想された。以上、甲状腺発生異常の分子遺伝学的原因を探る過程で、TTF-2により発現増加する23遺伝子を同定した。そのうちいくつかは多数の臓器発生に対して一般的な役割を持っていると考えられるが、一部の遺伝子は甲状腺の発生に重要であると考えられた。さらに、新規遺伝子T1560が同定され、特に甲状腺の発生に重要な機能を持っていると思われた。
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