研究概要 |
本年度は,動物を用いた基礎研究(テーマ1)として常圧低酸素環境への暴露および回復過程におけるラット骨格筋の生化学的特性の変化を明らかにすること,また,ヒトでの研究(テーマ2)として10日間にわたる低酸素室居住(LH-TN)が競技者の血液性状および呼吸循環応答に及ぼす影響を検討した。テーマ1では,若齢雄ラット(n=30)を常圧低酸素(酸素濃度15.4%)に50日間暴露し,一部のラットは,その後常酸素環境下で引き続き50日間の飼育を行った。実験期間終了時,横隔膜および下肢骨格筋(ヒラメ筋,足底筋)を摘出し,酵素(PFK, LDH, CS)活性を測定した。比較は,年齢の対応した対照群とで行った。その結果,PFKとCS活性は,いずれの筋においても低酸素曝露による変化は観察されなかった。しかし,LDH活性は,横隔膜および足底筋においては有意な増加を示し,さらに曝露中止後25日間で対照群のレベルまで低下した。これらの結果より,本研究で用いた条件での低酸素環境への曝露は,ラット骨格筋,特に速筋タイプの筋において解糖系に関する代謝特性を変化させるが,その効果は比較的素早く消失する可能性があることが明かとなった。テーマ2では,被験者として比較的高い競技レベルを有する学生長距離選手12名を用いて,血液性状(赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,網状赤血球,エリスロポイエチン)および運動時の呼吸循環器応答(酸素摂取量,換気量,血中乳酸濃度,心拍数)に対するLH-TLの効果を検討した。その結果,LH-TLはエリスロポイエチンおよび網状赤血球の増加など赤血球生成に対する刺激としては有効であるが,赤血球及びヘモグロビン量の増加は必ずしも認められないこと,また,運動負荷テストにおいては,最大酸素摂取量に変化を与えないが,最大下運動時の血中乳酸濃度が低く抑えられることが明かとなった。
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