研究概要 |
本研究は全4年の計画期間の内すでに3年を終え,研究計画全体の基礎となる近代日本の大縮尺都市図の作成状況・保存状況の調査についても,その過半を終了した。とくに本年度は,国立国会図書館と並んで広域に及ぶ日本近代都市の大縮尺図の所蔵が予想された東京市政調査会付属市政専門図書館において,その所蔵状況に関する調査を行うことができた。その結果,同会の設立年次(1922年)の関係もあって,本国書館所蔵の大縮尺近代都市国のほとんどが昭和戦前期作成のものであり,それ以前に溯る図はわずかであることが明らかとなった。 研究代表者(山田)は,本研究開始直前の2000年人文地理学会大会の特別研究発表「大縮尺地図と名簿資料にみる近代日本の都市」において,近代日本の大縮尺都市図が,(1)内務省作成の5000分の1都市図,(2)陸地測量部作成の大縮尺地形図,(3)商工案内図,(4)地籍図の系統に属する図,(5)都市計画図,(6)住宅地図,(7)火災保険図,(8)その他の市街地図,の8類型に区分されるのではないかとの見通しを提示したが,その後の本研究への取り組みの中で,この区分の妥当性についての確信を得つつある。ただし,以下のコメントも必要であろう。 1)(3)の商工案内図は,明治初〜中期に多く作成された「実業家明細図」的なものと.大正末期以後長期にわたって作成された「商工地図」的なものとの間にかなりの異質性がみられる。 2)日本固有のものとも言われる(6)住宅地図は,江戸期の切絵図以来の伝統を受け継ぐものかとも推測されるが,実際には明治期に作成された実例を見いだせず,その推測の当否は今後のさらなる検証に委ねられる。 3)上記(1)〜(8)のいずれにも該当しないものとして,仙台市が上下水道整備事業に向けて市制施行直後の1893年に作成した『仙台市測量全図』(5000分の1)があり,作成時期を考えると技術的にも特筆に値する。
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