現在の保育所最低基準は50年余り前の敗戦後の混乱期に制定された値で、今日の生活環境の質や多様な保育ニーズ、子育て支援機能などに対応するには余りにも貧しいものになっている上、在園時間の長い夜間保育児に対する配慮が全くない。認可夜間保育園は平成13年時点で全国に49園ありその内北海道から沖縄にいたる21園を調査した。夜間児は昼食と夕食の2食を保育園でとり、午睡と夜の就寝の一部を保育園でする。調査結果では在園時間が12時間以上の子が半数を占め19時間に及ぶような在園時間の長い子の存在もまれではない。父子家庭を含む単親家庭が、約1.5割ある。母親の職業は看護婦や飲食サービス業に限られず、医者や新聞記者・TVディレクター演奏家など専門職のキャリア層がめだつ。母親が専門職の子ども達の在園時間が長い傾向があり、車で遠方から通園している者が多い。夜間保育園は夜間児にとって生活の中心の場であり、住まいそのものであった。そこでまず、個人収納や便所・浴室の問題を中心とした、私的空間としての子どもの居場所が確保されているかを検討した。第2に、公的空間での食寝分離が達成されているかを検討した。昼食と夕食及び午睡と夜の就寝などの行為が、空間的にも時間的にも重複してクラス室で行われており、空間的にクラス室に多くの生活機能が重層化していることを明らかにした。それは保育の質を低下させていると共に保育士に過剰負担を強い、子どもを時間的に追い立てる結果を招いていた。第3に、近年の夜間専用園では園庭がない場合が多いことを念頭において、保育環境としての屋内外遊び空間のあり方を追究した。代替え空間としての屋上や人工地盤、バルコニーなどが遊び空間として果たしうる役割を検討している。最終的にこれらの結果から夜間保育園における「夜間室」のあり方を明らかにすると共に、小規模の夜間専用保育所と規模の大きい昼夜併設保育所の空間計画の特徴を整理している。
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