本研究は、昭和10年代、国民学校期の音楽教育の実践史において、学習者の視点を取り入れた研究の可能性を探り、子ども・教師・制度という三つの視点から国民学校期の音楽教育を総合的にとらえようとするものである。 平成13年度までに、農村部の一事例として長野県上伊那郡高遠町の高遠国民学校を対象に調査をすすめた。平成14年度は、それとの比較として都市部の事例に焦点化し、東京文京区の誠之小学校(誠之国民学校)を対象に調査をすすめ、平成14年2〜3月に学校保存の文書資料調査を、平成14年7〜8月に同校卒業生に対するアンケート調査を、平成15年2〜3月にかけて、卒業生に対するインタビュー調査を実施した。アンケートおよびインタビュー調査のデータの取り扱いと公表に関しては、個人が特定されないようすべて匿名とし、調査対象者のプライバシー保護に十分配慮した。 こうして出揃ったデータを互いに照合しながら、国民学校期の音楽実践史、特に音楽授業の諸相について具体像を浮かび上がらせることを試みた。具体的には、「学校日誌」から当時の学校や子どもたちを取り巻く音楽活動の諸状況を抽出したり、音楽教師の学校内外における活動や、音楽授業の実際、「備品原簿」等に見る蓄音機や楽器等の所有状況を把握した。また、「学籍簿」から当時の教師の指導の観点を抽出したり、あるいはアンケートやインタビュー・データをもとに、当時の子どもたちの音楽授業についての学びの記憶を、歴史資料として読み解くといった多面的なアプローチを用いて、音楽教育史研究に新しい視点を提起した。
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