音の文節と補完にかかわる周波数・時間情報の聴覚皮質処理について光学的計測法を用いて調べた。母音を含む多くの音素はその周波数成分の違いにより識別されるが、b、d、gのように周波数変化の違いで識別されるものや、bとpのように子音と母音の時間間隔により識別されるものもある。baとpaの識別境界は子音-母音間隔が35msのところにあることがヒト、サル、チンチラにおける心理物理学的分析から分かっている。音素を識別するときには音の周波数情報と時間情報を分析することが必要である。神経系による周波数分析についてはこれまで多くの研究があるが、時間情報の分析については分かっていない。音の途中に雑音区間を含む音は、雑音区間で前後の音が補完され音がつながって聞こえる。この現象は音の補完現象とよばれ、雑踏などで目的の音を聞き取るのに重要な役割を果たしている。この現象の神経機構についても分かっていない。この研究では、一次聴覚皮質(AI)が音の分離や補完にどのように関与するかについて動物実験で調べた。動物は光学計測が容易なモルモットを用いた。ネンブタール麻酔下で聴覚皮質を電位感受性色素RH795で染色し、フォトダイオードアレイ(空間分解能250μm、時間分解能0.58ms)で神経活動を記録した。音刺激として純音(PT)、2純音からなる複合音、無音区間(gap)を含む純音(PGP)および雑音区間を含む純音(PWP)を用いた。実験結果から、AIは周波数が近く(0.7オクターブ以内)時間的に近い(10ms以下)音をグループ化し、周波数的・時間的に遠い音を分離する傾向にあることが分かった。補完に関しては、AIは5ms以下のgapを検知していないこと、また、PGPとPWPに対する活動の比較から雑音はgap検知の閾値を上昇させることが分かった。
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