研究概要 |
本年度は,前2年度に考察した知識共生の概念に基づき、個別の領域での知識共生の実現の方法をすすめるとともに,全体のとりまとめを行い,概念的なモデルを提案した. 情報に関する活動(例えば収集など)やコミュニケーションに関する活動(他人とのコンタクトなど)は現代における人間の活動の中で非常に重要なものとなっている.これらをトータルとしてコンピュータで支援することが求められている.ここではこの人間の情報・コミュニケーション活動を2つの層の6つの種類の活動に大別することで,全体をモデル化する. 第1の層は情報の扱いに関する3種の要素があり,それぞれ"Collect(集める)","Create(創る)","Donate(提供する)"とする.これはユーザを中心とした視点から見た情報のライフサイクルである.情報はユーザによって収集され,それらの情報に基づいて新しい情報が創造される. そして新しい情報は社会に提供され,将来の創造のために利用される.新たな情報が無から作り出されることは稀であり,多くの場合は既存の情報が下敷きとなる.第2の層はコミュニケーションの扱いに関する"Relate(つなげる)","Collaborate(ともにする)","Present(現す)"の3種の要素である.これも第1層と同様にユーザ中心のコミュニケーションプロセスであるといえる.ある人物が他の人々との関係を得て,新しい情報を生み出すために協調する.そして彼ら自身が新たな情報源として社会に対しその存在を表明する.2つの層は相互に依存しあっている.情報を集めたり,提供したりするにはその相手が必要であり,それには他者のつながりを求めたり,自らを現す必要がある.逆に誰かとつながるには情報を集めないとわからない.このようなつながりをつくりつつ,つながりをチャンネルとして他者とコミュニケーションを行うことが本研究で目標とした知識主体のひとつの在りようであること考えることができる. このようなモデルの下,個別の研究を行った.1つは二つの異なる階層的情報源間の関係を構造的および意味的な方法で求めることを行った.知識主体の自律的形成過程を明らかにするために,Webコミュニティの研究を行った.これらの目標に対する取り組みとして,(1)ハイパーリンクのグラフ構造に注目したコミュニティの発見,(2)密な部分グラフ構造を見出すコミュニティの洗練,(3)正例と負例を明示的に与えることでコミュニティの境界を見出す試みについて研究を進めた。知識主体の実装方法としてエージェントを実現するためには,いつでもどこでも誰でも安全に使えるような仕組みである必要がある.そこで,本研究では,3種類のエージェント(ユーザインタフェースエージェント,プログラマブルエージェント,サービス仲介エージェント)を用いてこれらの問題を解決する分散システムフレームワークを提案した.
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