研究概要 |
これまでの内外の津波痕跡研究では,堆積層の発見と年代推定に注目されてきた。しかし,津波による物質の移動機構に関しては多くが不明であり,科学的な説明は得られていない。また,平野を埋め立てる広範な砂の堆積や丘陵をなす膨大な土砂の集積に関しても,具体的な解釈は与えられていない。本研究では,物質の移動機構に注目し,運搬される物質をミクロ的(粒子表面観察,粒子形状測定,粒度測定)及びマクロ的(堆積相解析,水槽実験,数値実験)に検討し,津波による物質運搬メカニズムの学際的な解明を試みている。砂の堆積現象が最も広範囲に現われた869年貞観仙台沖地震津波による堆積物運搬の様式を粒度組成及び堆積相から類推し,津波による流れの水理学的実体を解明する目的で,堆積物に含まれる石英粒子表面の削打痕の観察を進めてきた。一方で,水槽実験により分級現象と削打現象を再現し,堆積情報と媒質流体の速度と密度の関係の数値的な対応を試みた。これらの堆積学的・水理学的結果に基づき数値実験を行った結果,堆積物運搬の現象が次第に明らかになりつつある。 申請設備備品であるレーザー超深度形状測定顕微鏡装置による粒子形状解析結果からは,堆積層の厚さが擦痕の形状(深度及び規模)と対応関係にある事実が見出された。堆積物の移動と集積を試行実験する水槽実験装置の結果では,堆積層の厚さが水流の規模を反映している。従って,削打痕の形状から,津波の規模と土砂運搬の運動学的特性が明らかになる可能性が示唆される。
|