研究概要 |
超短パルスレーザーを用いて固体からプラズマ状態までの遷移過程を調べるこの研究では、エリプソメトリと超短パルスレーザーポンププローブ計測を組み合わせた新しい計測システムが構築され、さらにそのデータを解析するためのプラズマの膨張に断熱過程を仮定したMaxwell伝播方程式を解くシミュレーションコードツールの開発も行われた。その結果、以下のような新しい知見がこの遷移状態について明らかになった。 1.この研究で中心的な研究対象となった金は、常温状態での赤外光に対するAC導電率の特性が、その絶対値、周波数依存性ともに古典的なDrudeモデルにより説明できる物質である。また、これまでの研究で高温プラズマ領域では、やはり自由電子の寄与が主となるDrudeモデルにより吸収率等がよく説明されていた。しかし、固体から高温化され、沸点を超える程度になり、膨張が始まると急激に導電率の大幅な減少が起こることがこの研究で観測された。このとき、Drudeモデルの減少比は1/100以下であり、予想された自由電子密度では全く説明できない。この結果について、日、仏、米の研究者でワーキングを重ね議論した結果、電子の局所化という通常の固体物理で論じられる現象と類似したモデルを使うことで、説明できることができるようになって来た。これは、プラズマでは新しい概念であり、米国のサンディア研究所、フランスのCEA研究所と共同して、現存する理論モデルとの擦り合わせを行っている。 2.実際にこのようなwarm dense matterと呼ばれる物性を明らかにするには、複数の視点からの計測が必要になる。特に初期に固体であるものが、固体表面を保ちながら高温化し、しばらくした後に膨張成分が現れ、低密度なプラズマが観測の主対象に代わり、さらに、断熱膨張冷却により液体-気体2相流流体領域に入っていく様を、すべて観測していかなければならない。このため、フレネル近似を用いた再構成信号法の開発、拡散光の同時計測、フォトニッククリスタルファイバーを用いたプローブ波長の広帯域化などを行い、データの収集を行えるシステムを構築してきた。しかし、物性定数をデータから求めるには、解析コードの改良等が極端なことを言えば、物質それぞれで必要になる。 3.これまでに観測対象となった物質はW, Mo Au, Cu, Mo, W, Al, SiO_2, Sn, Stainless Steelなどであり、すでに"見かけ上の"光学物性はそれぞれに対して求められている。このデータは、単純な超短パルスレーザー加工、アブレーション応用等ではすでに有用であるので、この結果を近くWebを通して公表していく。
|