研究概要 |
まず,昨年度までに組み立て及び予備的な試験が完了していた低エネルギーパルス陽子ビーム発生装置の最適化調整を行った.ポリエチレン(C_nH_<2n>)標的を最大エネルギー50mJのYAGレーザー(二倍高調波)で照射してプラズマを発生した.このプラズマからイオンを引き出して120kVの直流高電圧で加速した.静電型二連四重極レンズの電圧調整により,標的位置でビーム電流は10倍程度増加した.加速管出口から下流5mの位置にマイクロチャンネルプレートを用いた時間検出器を設置し,イオンの飛行時間から発生したイオン種の同定を行った.その結果,得られるイオンの大部分は予定通り陽子(H^+)であり,その他炭素イオン(C^+, C^<2+>, C^<3+>)が少量混入することが分った.続いて飛行時間法によるイオンのエネルギー損失測定を行うために,リエントラント型空洞共振器を用いたビームパルス化装置を製作し,その試験を行った.その結果,共振周波数180MHzにおいて20Wの高周波電力を入力することによりギャップ電圧約0.3kVを発生し,標的位置で陽子ビームを幅1ns以下にパルス化することに成功した. 次に,以上の装置を用いた予備実験として,炭素薄膜を標的として,炭素中の120keV陽子の阻止能測定を行った.飛行距離5m,標的厚さ2μg/cm^2に対し,測定されたパルスの時間遅れは6nsであり,結果として0.7MeV/(mg/cm^2)という阻止能が得られた.この値は文献による値と良く一致した. 以上の結果より,プラズマの強い発光によるバックグラウンドの除去に成功すれば,次年度の目標であるプラズマ標的を用いた阻止能測定が可能である見通しが得られた.
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