研究概要 |
実施2年目も分析方法の改訂を試みた。初年度は,ジクロロメタンで抽出・過塩素酸で有機物の分析を行い,藤前干潟の汚染度の検討を行った。しかし,ジクロロメタンは環境への負荷が大きいこと,人体への悪影響があることを理由に,トルエン・メタノール混合溶媒により抽出する方法へとかえた。そして,過塩素酸分解ではヒ素などの揮発性元素が散逸する可能性があるので,12%硝酸を用いたマイクロウェーブ分解を行うことで,有機金属の回収率を向上することができた。 さらに,当初の目的であった大阪湾で底泥の試料採取を延べ10日間行い,約150試料が回収できた。そこに含まれる有機金属元素の定量を行った。大阪湾の東半分と西の淡路島に沿って泥質堆積物が分布し,西半分の大部分に砂質堆積物が分布する。泥質堆積物が分布する東半分は海水が淀み人的影響が強い可能性がある。本年は神戸・大阪沖の試料と淡路島沖の試料の対比を行い,人的影響の有無を調べた。その結果,海域により有機態金属の汚染背景が異なることが分かった。特に,淀川からの影響は,Ni、Zn、Pb、Sn、Seに見られる。また、高極性溶媒であるメタノールと低極性溶媒であるトルエンにより抽出を行ったことで様々な性質をもつ有機態金属を分析することができた。このことから有機態金属は新たな環境指標になり得ることが分かった。特に、有機態Mgの水平分布がフィオフィチン、有機態炭素とほぼ同じ傾向がみられたことは、環境アセスメントの簡便性という視点から有用であると思われる。しかし、大阪湾は閉鎖系海域であり、エスチャリー循環などの恒流系、粒子の沈降速度などの影響も考慮しなければならない。また、海水環境中における金属の吸着、沈降の有機的経路や堆積物中の有機態金属の構造変化など有機態金属の挙動は重要な研究課題となっている。これらのことを踏まえ、今後さらに水平分布による調査を行い、有機態金属の汚染実態および挙動解明を行っていきたい。
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