ディーゼル排気(DE)は、国内外で深刻な社会問題となっている大気汚染発生源の一つである。呼吸気道に侵入したディーゼル排気微粒子(DEP)は上部気道を容易に通過して細気管支や肺胞領域に達しそれらの部位に沈着するとともに、体内に吸収された成分が肺や循環器系をはじめとして全身の臓器に重篤な影響を及ぼす可能性が示唆されている。本研究ではDEPが生体に及ぼす影響として重要視されている循環器系および生殖器系機能に対する作用に関して、生体への曝露実験から摘出臓器および細胞にいたるまでDEPの影響に対して多面的に検討を加えた。DE曝露実験、DEP溶液の静脈内投与実験、および血管や心筋の摘出標本を用いた実験などの生理学的実験から、DEPには血管や心筋に作用する化学物質が含まれ、それらが生体に対して血圧の上昇あるいは低下、異常心電図の発現の原因となることが明らかとなった。さらに、DEPは心筋培養細胞に対して細胞傷害性作用を有することが明らかとなり、その傷害性にはO_2^-、H_2O_2やOHなどの活性酸素種が関与し、心筋細胞由来のNOは細胞傷害性に関与する可能性の低いことが明らかとなった。この様に心筋細胞を用いて得られた結果は、DEを吸入曝露した際の心血管系における反応に関して、その機序の一端を説明できるものと考えられた。一方、DEPは雌マウスの生殖機能やその子の生後発達に対して、DEP中のフタル酸エステル類などの作用を介して有害な作用をもたらすことが明らかとなった。したがって、DEPは生殖器系に関して毒性学的および内分泌かく乱作用としても多大な影響を有する可能性が示唆された。 DEPの循環器系や生殖器系を含めた生態に及ぼす影響に関してはさらに詳細な検討が必要であると考えられるが、本報告がこの分野の研究における今後の発展にとって多少なりとも有用な情報源として貢献できれば幸いである。
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