研究概要 |
水棲鳥類であるクロアシアホウドリ(Diomedea nigripes)やカワウ(Phalacrocorax carbo)は2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)を含むダイオキシン類を高濃度に蓄積している。ダイオキシン類は、aryl hydrocarbon receptor (AHIR)シグナル伝達経路を介して、様々な毒性影響を及ぼす。しかしながら、野生動物AHRの特性や感受性はほとんど明らかにされていない。本研究では、AHR cDNA塩基配列の同定、さらにmRNAの組織別および個体別発現量の解析を試みた。 RT-PCR・RACE法により、クロアシアホウドリとカワウで、それぞれ2種のAHRアイソフォームcDNA塩基配列を同定した。系統学的解析の結果、これらは'AHR1 clade','AHR2 clade'に属していた。これまでAHR2の存在は魚類のみで報告されており、他の脊椎動物でAHR2の存在を確認したのは本研究が最初である。各鳥類のAHR1とAHR2のアミノ酸配列相同性は33-35%であった。この相同性は哺乳類や魚類の同一アイソフォームの相同性より低く、各アイソフォームの種を超えた高い保存性が確認された。 リアルタイムRT-PCR法を用いて、カワウのAHRアイソフォームmRNA量を組織別に解析したところ、AHR1は多くの組織でほぼ同程度に、AHR2は主に肝臓で発現していた。また肝臓中AHR mRNA量の個体別比較から、AHR1とAHR2の発現量の間に有意な関係は認められなかった。また、AHR1 mRNA発現量とTEQ値の間にも有意な関係は認められなかったが、AHR2はTEQ値の上昇に伴い減少した。以上の結果から、各AHRアイソフォームはそれぞれ異なる発現制御を受け、特異的な機能を有していることが示唆された。
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