我々は、これまでにX線あるいはγ線照射された哺乳類細胞に室温で20時間程度の寿命を持つ超寿命ラジカル(LLR ; Long Lived Radical)が生ずることをESRによるラジカル解析によって発見した。さらに、LLRは、放射線被曝後数十分から数十時間後に5mM程度のビタミンCで2時間処理することによって完全に消失することがわかった。活性の高いOHやO_2^-ラジカルの革命は200ナノ秒以下であるので、ビタミンC処理で捕捉されるラジカルは、LLRであると考えられる。LLRの消失に伴って細胞突然変異や細胞がん化誘導は抑制されるが、染色体異常や細胞死誘導を抑制することは出来ない。システアミンやDMSO処理でOHやO_2^-ラジカルを消去することで細胞死や染色体異常誘導を抑制することができるが、細胞突然変異や細胞がん化誘導を抑制することはできない。これらのことから、我々は、LLRこそが放射線による細胞の突然変異と細胞がん化の主因であると結論している。 さらに、電子スピン共鳴解析法による解析から、LLRは、細胞内の疎水性のバイオポリマー部位で、恐らくDNAや脂質でなく、システインなどのスルフィニル基に年じていることなどが明らかになった。 これら一連の結果は、これまで放射線生物学的に信じられてきた"放射線突然変異や発がんの原因は活性が高い酸素ラジカル種(ROS)がDNAや染色体を破壊することである"という予想を覆すものであり、ヒトにおける突然変異や発がんがタンパク質に生じた変異を起源とするという極めて新しく放射線の遺伝影響の本体を知るために極めて重要な知見である。
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