研究概要 |
これまでリンパ腫発生の遺伝学的研究および分子生物学的研究によって、がん抑制遺伝子の探索を行なってきた。種々のF_1マウスリンパ腫を用いたヘテロ接合性の消失(LOH)の解析から、がん抑制遺伝子は4,9,11,12,16,19番染色体に存在することが予想された。本年は、(STS/A-p53^-x MSM/Ms)F_1マウス及び(BALB/c x STS)F_1マウスのリンパ腫におけるLOHを解析した。得られた結果を以下に記す。 1.p53ヘテロ欠損と協調して現れた9番染色体の新規LOH領域では、STS由来アリルの選択的消失が見られた。このことは9番染色体にp53と協調して働き且つ、発がん感受性に関わるがん抑制遺伝子の存在を示唆している。 2.16番染色体にもp53遺伝子と強く協調して働くがん抑制遺伝子の存在が示された。 3.12番染色体のLOHは3種類のF_1マウスに共通して高頻度で現れたが、19番染色体のLOHの出現は系統の組み合わせに強く依存した。 4.STS由来のアリルをもつF_1マウスにおいて、4番染色体上のLOHが検出され、且つリンパ腫抵抗性のSTS由来アリルが選択的に消失していることから、4番染色体にも、発がん感受性に関わるがん抑制遺伝子が存在していることが示された。 5.4番と19番染色体上で観察された長い領域にわたるLOHは、大部分が体細胞組換えによるもので、ごく少数例は染色体不分離によるものであると考えられる。これらの場合変異又はメチル化により不活性化されたがん抑制遺伝子が体細胞組換えによってホモ接合体になること(homozygous dysfunction)ががん化の重要な機構の一つであると推察される。
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