研究概要 |
Atmとp53ヘテロ欠損マウスにおける乳癌の発生を調べ、両遺伝子の発がんへの寄与を解析した。さらに乳癌のヘテロ接合性の消失(LOH)を調査し、がん抑制遺伝子の領域を推定した。 1.BALB/cHeA-p53^<KO/+>KとMSM/Ms-Atm^<KO/+>を交配したF_1雌マウスに5GyのX線を照射したところ,乳癌はp53^<KO/+>Atm^<+/+>マウスでは33%,p53^<KO/+>Atm^<KO/+>マウスでは61%に発生した.しかし,p53^<+/+>Atm^<+/+>マウス及びp53^<+/+>Atm^<KO/+>マウスでは乳癌は発生しなかった. 2.放射線照射したマウスにおける乳癌の発生は20週から38週経過の期間に集中し,それらの遺伝子型はすべてp53がヘテロであった. 3.ゲノムワイドのLOHスクリーニングより5番,8番,9番,10番,11番,12番染色体において比較的高頻度のLOHが観察された. 4.8番染色体についてLOHを調べたところ,D8Mit45(40cM)から8Mit120(61cM)までの領域において高頻度のLOH領域を発見した.この領域はヒトの乳癌でがん抑制遺伝子の存在が強く示唆されている16q22-23に相当する. 5.12番染色体には少なくとも2つの高頻度のLOH領域が存在した. 6.セントロメア側の広いLOH領域では,その頻度は66%に達した.他方はD12Mit28(52cM)からD12Mit279(53cM)に至る領域で,そのLOH頻度は59%であった. 7.9番染色体ではD9Mit20(61cM)において20%の低い頻度のLOHが観察されただけである. 8.10番染色体では,D10Nds3(30cM),D10Mit12(56cM)においてそれぞれ48%,40%の比較的高い頻度のLOHが観察された. 9.53^<+/KO>マウスに発生した乳癌41例中40例(98%)においてp53の野生型アリルが消失しており,乳癌発症にp53の機能喪失が主要な役割を演じていることを示している.
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