研究概要 |
光屈性は植物が具備する環境応答反応の代表的な生物機能である。光屈性はオーキシンの光側から影側組織への横移動によって引き起こされると説明されてきた(Cholodny-Went説)が、オーキシンの偏差分布は全く認められないことが機器分析によって示され、更に光側組織で生成される成長抑制物質によって偏差成長が起こり、屈曲が誘導されることが明らかにされている(Bruinsma-Hasegawa説)。 本研究では1)光(青色光)照射によって光側組織で生成される成長抑制物質(光屈性分子)を様々な植物から抽出・単離し、NMR, MS, IR等のスペクトルデータからその化学構造を解明する、2)光屈性分子の関連物質を探索し、その化学構造を明らかにし、光屈性分子の生合成経路を解明する、こと等を主な目的として研究を行った。その結果、以前中性の成長抑制物質が光屈性に関与することが指摘されていたトウモロコシ幼葉鞘から、青色光によって生成される成長抑制物質を単離し、DIMBOAとMBOAであることを明らかにした。また、同時にDIMBOA glucosideも単離・同定し、これらの物質の光屈性に伴う動態を分析した結果、光側組織で先ずDIMBOA glucoside(不活性型)が短時間で減少し、同時に強い成長抑制活性を有するDIMBOAが増量し、次いで活性型のMBOAが増量することが分かった。影側組織と暗黒対照では殆ど変動しないことも分かった。従って、トウモロコシ幼葉鞘の光屈性では光側でDIMBOAが生成されることによって光側組織の成長が抑制されて屈曲することが示唆された。また、シロイヌナズナの野生株と光屈性を示さない突然変異株を用いて青色光照射によって野生株で増量し、突然変異株では変化しない成長抑制物質を単離し、indole-3-acetonitrileであることも明らかにし、この物質がシロイヌナズナ下胚軸の光屈性に重要な役割を演じている可能性が示唆された。
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