抗生物質など微生物二次代謝産物の特徴は化学構造及び生物活性の多様性にある。その源泉である生合成システムを遺伝子・酵素・生成物を通じて分子解析した。特異な大環状ラクタムポリケチド配糖体抗腫瘍物質ビセニスタチンの生合成系を先ず検討した。ラクタム窒素を含むスターター部について標識実験により立体化学を含めて解明し、糖質生合成系の遺伝子情報を基に探索して約64kbpからなる生合成遺伝子クラスターvinを同定し、逐次反応を解明した。特にPKSローディング部が前例のないACPだけからなることは重要である。糖転移酵素VinCを大腸菌にて大量発現し、糖質及びアグリコンに対する基質特異性を解明し、骨格の異なる多様な脂溶性アグリコンと反応出来ることを示した。PKS遺伝子の探索過程で新規遺伝子を発見し、遺伝子情報から生成物の部分構造を推定して実際に培養液を検索し、新規ポリケチドhalstoctacosanolide A及びBを得た。遺伝子情報による新規物質の探索という新方法論を例証した。アミノ配糖体抗生物質の多様性に関連し、ブチロシン生合成遺伝子クラスターの各読み枠の酵素機能について遺伝子破壊及び酵素発現により解析し、生合成逐次反応を解明した。糖質環化酵素BtrCでは機構依存的共有結合性阻害剤を用いて活性中心のリジン-141を解明し、BtrDは全く新しいヌクレオチドリン酸合成酵素であり、BtrMはパロマミンを与える糖転移酵素、またBtrSはデオキシストレプタミン生合成における二度のアミノ基転移反応を触媒し、興味あるキラル認識能を持つことを明らかにした。同族抗生物質を産する放線菌の近縁酵素遺伝子の部分クラスターも解明した。イソプレノイド生合成では、完全重水素化メバロン酸の実用的不斉合成法を開発し、放線菌由来のジテルペン閉環酵素の反応機構を解明した。
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