研究概要 |
近年、生化学分野における分析手段の発展に伴い、アミノ酸側鎖由来の新しい有機補欠分子が次々と明らかにされている。特に酸化還元酵素の活性中心から発見された新しい有機補欠分子は、いずれの場合も酸化活性なアミノ酸側鎖(チロシンのフェノール部位、トリプトファンのインドール部位、システインのチオール部位など)が翻訳後化学修飾(Posttranslational Modification)を受けて誘起されたものである。これらの補欠分子族は酵素活性中心に位置し、酵素触媒反応において必須の役割を果たしている。しかし、それらの生成機構や物理化学的特性、および触媒反応機構などの詳細についてはよくわかっていないのが現状である。本研究では、これら新規な有機補欠分子族の構造や物性、および酸化還元触媒作用について詳細な知見を得るため、各補欠分子の精密なモデル化合物を合成し、それらの分光学的特性や物理化学的性質、ならびに酸化還元挙動や各種基質との反応性について詳細に検討を行った。 1.キノヘモプロテイン・アミン脱水素酵素から見いだされたシステイン・トリプトフィルキノン補欠分子(CTQ)の全合成と物性および機能解明。活性中心にヘム鉄とキノン系補欠分子を含むキノヘモプロテイン・アミン脱水素酵素から見いだされた新規な有機補欠分子システイン・トリプトフィルキノン(CTQ)の構造と物性および化学的機能を解明するため、新規有機補欠分子CTQの合成に着手した。その結果、バニリンを出発原料とし、11段階を経てCTQの前駆体であるインドール-6,7-キノン誘導体の合成に成功した。 2.ガラクトース酸化酵素活性中心の精密モデル化と機能解明.我々はすでに、ガラクトース酸化酵素の有機補欠分子モデルとして金属の配位場を共有結合で導入した各種フェノール誘導体を用い、その銅(II)および亜鉛(II)-フェノラート錯体の構造および分光学的特性、酸化還元電位などを明らかにしてきた。そこで本研究では、対応するフェノキシルラジカル錯体の安定性や反応性に及ぼす中心金属を役割を明らかにするため、金属の種類や配位部位の構造を変化させたモデル錯体を調製し系統的に検討を行った。さらに、フェノキシルラジカル錯体によるC-H結合の活性化機構について知見を得るため、フェノール誘導体の酸化反応について速度論的に検討を加え、電子移動経由で反応が進行することを明らかにした。
|