核酸の多様な高次構造形成に関する情報は、一塩基多形(SNP)解析や高次構造の検索などといったポストゲノム研究を初めとして、バイオマテリアル分野など広範囲の研究に不可欠なものである。そこで本研究では、これまで定量的な知見がほとんど報告されていなかった、核酸の塩基対認識や特異構造形成における周囲の環境因子、特に金属イオンの重要性を分子レベルで考察した。これまでの研究成果として、核酸の平行/逆平行二重鎖、パラレル/アンチパラレル三重鎖、Gカルテット/Iモチーフ四重鎖構造など、多様な構造の安定性に関してどのような金属イオンがどの程度の影響を与えるかを定量化することができた。今年度は、これら核酸の高次構造に対する金属イオン、特に一価金属イオンの影響が、共存する溶質分子の濃度によってどのように変化するかを定量化した。その結果、一価金属イオンのみが存在する条件下では二重鎖構造を形成するDNAが、ポリマー分子の共存によってパラレル型四重鎖構造となることを見いだした。これは、高濃度の二価金属イオンが存在するときに観察されるのと同様の現象であり、共存分子の存在によって金属イオンの効果がどのように変化するかまで評価可能なデータベースを構築することができた。また、同様の解析を二重鎖構造に対して行ったところ、共存分子の効果を金属イオン効果と独立に評価できることが解った。実際に、これらの知見を基にヘアピンループ構造と二重鎖構造のそれぞれに対する金属イオン効果を予測し、塩濃度によって最安定構造が変化するDNAオリゴマーを設計することができた。多様な核酸構造に対する金属イオン効果のデータベースを参照することで、様々な溶液条件下での核酸構造の熱力学的安定性が予測できる。従って、本研究で作製したデータベースは、広い応用研究で有用な情報を与えると考えられる。
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