研究概要 |
ミトコンドリア機能維持の中心的プロセスは,サイトゾルで合成された500〜1000種類に及ぶミトコンドリアタンパク質前駆体のミトコンドリア移行である。ミトコンドリアは外膜,膜間部,内膜,マトリクスの4つの区画から構成されているので,ミトコンドリタンパク質の流れ(フラックス)は各区画に向かう4つの流れに分岐する。本研究では,酵母ミトコンドリアタンパク質のフラックスの管制と制御における分子認識に焦点を絞り,前駆体中の目的地/分岐シグナルがTOM/TIMに正しく認識される仕組みの解明をめざす。 われわれは,プレ配列には複数のマトリクス移行シグナルが書き込まれており,複数のプレ配列結合タンパク質がこれらのシグナルを認識するという「多重シグナルモデル」を提案した。このモデルを検証するために,Tom20以外のプレ配列結合タンパク質の候補であるTom22のサイトゾルドメインを調整し,同位体ラベルしたプレ配列ペプチドに加え,ペプチドのNMRシグナルの化学シフト変化を追跡することにより,プレ配列中のTom22結合部位を同定した。明らかになったTom22結合部位は,先に同定したTom20結合部位とは異なること,結合は塩濃度感受性を示し,主として静電的相互作用によるものであることがわかった。 ADP/ATPキャリア(AAC)など内膜に向かうタンパク質の多くはプレ配列を持たない。これらのタンパク質は外膜通過後,膜間部の可溶性タンパク質であるTim9/Tim10複合体により認識され,内膜へ挿入される。無細胞タンパク質合成系において,AACに部位特異的かつ系統的に光反応性非天然アミノ酸を導入した。単離ミトコンドリアへの取り込み実験で膜透過反応中間体を形成させ,光架橋反応によりアミノ酸残基レベルの空間分解能で,AACとTim9,Tim10(及び他のTom,Timタンパク質)との相互作用をマッピングした。その結果,Tim9/Tim10複合体のTim10がキャリアタンパク質の内膜への分岐シグナルを認識し,Tim9が疎水性領域をマスクして膜間部の可溶性環境の通過を可能にすることが示唆された。
|