次の(1)〜(4)の成果が得られた。 (1)分子モーターの駆動機構に関する新しい理論 筋肉はいかにしてATPの化学エネルギーを力学的エネルギーに変換するか?これは長年の分子生物学の未解決問題であり、多くの実験的、理論的努力が続けられてきた。本研究では、フォールディング研究で用いられた方法と概念を蛋白質の運動の記述に用いることにより、力発生を合理的な物理的前提と分子構造、1分子計測、そのほかこれまでの多くの実験と矛盾しない形で説明するモデルを構築した。 (2)分子進化と蛋白質ダイナミクスの理論 生物学的な選択なら蛋白質はその機能によって選択される。こうした機能に関わる選択を通じて100〜200世代で得られた配列は、たいていの小規模なアミノ酸置換に対して機能や安定性を変えない(たいていの変異は中立変異である)、という自然の蛋白質に広く見られる鈍感さを持つ。 (3)光シグナル伝達系の機能発現ダイナミクスの新しい描像 Photoactive Yellow proteinは発色団を持つ蛋白質であるが、この蛋白質の光シグナル伝達における重要な状態が部分的にunfoldした状態であることが実験的に示されている。Munotzらがフォールディング研究のために開発した統計力学的モデルをさらに発展させ、エネルギーランドスケープの計算に適用し、光によって誘起されたunfolding-folding転移を合理的に説明することに成功した。大規模構造変形を伴う、光緩和の新しいシナリオを提案することができた。 (4)蛋白質フォールディングダイナミクスにおける中間体の役割の解明 格子模型を用いて、ネイティブ構造のほかに際立って深いエネルギーミニマムに対応する中間体のあるマルチファネル型ポテンシヤル面上のフォールディング過程を分析した。
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