生体内では、種々の内的および外的要因によりたえず塩基レベルのDNA損傷が大量に発生する。未修復のまま残った損傷に複製フォークが遭遇すると、複製が停止しうる。DNA複製が完了できないと、その後のM期での染色体の凝縮と分配が正常に起こらないので、細胞にとって致死である。複製が停止した場合におこるトラブルは、複製後修復経路によってプロセスされ、複製が再開される。酵母のミュータントの解析から、主要な複製後修復には、(A)損傷乗り越えDNA合成(Translesion DNA synthesis=TLS)と(B)相同DNA組換え(Homologous DNA recombination=HR、複製が停止した姉妹染色分体が複製を継続している姉妹染色分体と組み換えすることによって複製停止から回復)とがあることがわかっている。(A)TLSに関与すると考えられるDNAポリメラーゼ(TLS DNAポリメラーゼ)のヒトホモログ遺伝子が最近4年間に8種類も見つかった。高等真核細胞における複製後修復の役割は、これらに関与する遺伝子の多くがその欠損によりマウスで胎生致死になるので、よくわかっていない。 我々は、動物細胞で唯一標的組み換えがランダムインテグレイションと同効率で起るニワトリBリンパ細胞株DT40を使って、(A)TLSと(B)HRの欠損株を系統的に作製、解析してきた。そして、HRとTLSは、互いにオーバーラップしながら、大量に発生している複製ブロックから回復するのに必須の働きをすることを解明した。このように恒常的に機能しているHRによる修復反応は、姉妹染色分体交換として検出できることを我々は明らかにした。自然発生する姉妹染色分体交換のレベルと標的組み換え効率とは、正に相関することから、我々は、恒常的に機能しているHRによる修復反応が標的組み換えにも同時に関与すると仮定して研究を進めている。
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