熱ショック応答は、生体のストレス応答システムのうち最も普遍的な生体防御機構と考えられている。本研究では、このシステムの細胞防御機能を解析し、さらに個体においてHSFシステムの生理的役割を解明するのが目的である。本年は特に後者の解明が進んだ。 申請者は、HSF1欠損マウスを作成し、多彩な発生異常をきたすことを見いだした。腎臓の糸球体と尿細管の異常、脾臓とBリンパ球の分化異常、筋肉細胞の分化異常、繊毛不動症候群に類似した脳質拡大と鼻腔の炎症などである。今後、これらの異常の分子機構を明らかにしてゆく。また、雄マウスの生殖能は正常であり、組織学的にも精子形成に異常はない。精子形成過程は温熱ストレスに脆弱であることが知られているが、HSF1欠損マウスでは温熱ストレスによる細胞死が抑制されることが分かった。つまり、HSF1は精子形成の品質管理機構に寄与している。HSF1が細胞死を導くためのターゲット遺伝子を検索してお入り、いくつかの候補遺伝子を明らかにした。 一方、HSF4欠損マウスの解析から、HSF4が目のレンズ形成に必須の因子であることが分かった。HSF4が欠損することでHsp25やガンマクリスタリンなどのシャペロンの発現が低下して白内障を発症する。レンズ組織においては、他の組織と異なり、HSF4が熱ショックエレメントに結合する主要な熱ショック転写因子であることが分かった。このように、HSF4が組織特異的に発生過程に寄与することが分かった。
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