研究概要 |
ゲノム全シークエンスた解明された大腸菌の研究の先端攻究課題は、全4,000遺伝子からどのような仕組みで転写をされる遺伝子が選択され、それらの転写レベルがどのような仕組みで決定されるかを解明することである。大腸菌細胞当りのRNAポリメラーゼは、約2,000分子で遺伝子総数より少ないことを発見して以来我々は、多数遺伝子間での転写装置の分配制御が転写包括制御の本質であるとの理論を提唱して来た。この理論の検証を目的として本研究を実施し、下記の成果を得た。 1)RNAポリメラーゼコア酵素の第一次機能分化に関わる7種類のシグマ因子の抗体を作製し、各種培養条件での、シグマ7種類の細胞内濃度を測定した結果、増殖関連遺伝子の転写に関わるシグマ70がいつも主要成分ではないことを発見した。 2)RNAポリメラーゼの第二次機能分化に関わる、約300種類の転写因子のうち約100種類を純化し、金属応答転写因子、酢酸応答転写因子について機能特異性を試験管内転写反応で解析した。この研究から、プロモーター上流域に結合する転写因子が、RNAポリメラーゼと強く相互作用をして、転写開始・伸長を抑制する、新たなレプレッション機構を発見した。 3)各転写因子の生理機能同定を目的として、転写因子欠損変異大腸菌を利用して、DNAチップを用いたマイクロアレイ解析を実施し、各シグマ因子及び各金属応答転写因子が欠損した時に、低下したり昂進する遺伝子群の同定が出来た。 4)各転写因子に対する特異抗体を作製し、転写因子の細胞内濃度の系統的測定を行い、これまでに約30種類について、大腸菌各種増殖相での濃度が判明した。 5)定常期移行過程の大腸菌の浮遊密度が不連続に増加することを発見し、その性質を利用して増殖相の異なる細胞集団を分離することに成功した。均一細胞集団を利用して転写包括制御を解析する、新たな研究戦略の採用を可能にした。
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