Rhoファミリーは、細胞外シグナルの下流で細胞骨格や接着、細胞極性、細胞運動などを制御していると考えられているが、作用機構は長らく不明であった。我々はRhoファミリーの一つであるRhoの標的蛋白質としてRho-キナーゼを見出している。また、Rho-キナーゼの基質としてCRMP-2を同定している。CRMP-2が神経細胞の極性形成および維持に重要な役割を果たすことを示している。本研究の目的は、CRMP-2を手掛りとしてRhファミリーによる神経細胞の形態制御機構を分子レベルで解明することである。具体的には、(1)CRMP-2による軸索運命決定作用を分子レベルで明らかにする。(2)Rhoファミリーによる神経細胞の形態制御機構を分子レベルで解析する。(3)個体レベルで神経細胞の形態制御機構を解明する。 本研究でCRMP-2の作用機構を明らかにする目的で、CRMP-2に特異的に結合する分子としてチュブリン、Numb、Rhoの活性制御因子(LARG)を同定した。(1)CRMP-2がチュブリンヘテロダイマーに結合し、微小管の重合能を高めることを明らかにした。また、CRMP-2がNumbを介してエンドサイトーシスを調節し、軸索伸長を制御することを見出した。(2)Rho-キナゼによりリン酸化されたCRMP-2はチュブリンヘテロダイマーへの結合能が低下することを見出した。また、CRMP-2がLARGの活性をネガティブに制御することで、Rho/Rho-キナゼ経路に抑制的に働くことを示唆した。さらに、Rac1/Cdc42による細胞極性機構を解明するために、それらの標的蛋白質1QGAP1結合蛋白質を探索したところ、CLIP-170を同定した。CLIP-170は微小管のプラス端に濃縮し、特定の細胞表層を認識し、微小管を配向、アンカーさせる分子である。さらに、Rac1/Cdc42、IQGAP1及びCLIP-170による微小管の細胞表層での捕捉機構を明らかにした。(3)線虫のCRMP-2ホモログであるunc-33の機能解析を試みた結果、UNC-33が神経特異的に局在することが明らかになった。これらの結果から、CRMP-2を中心とした解析により、Rhoファミリーによる神経細胞の形態制御機構の一部が解明されたと考えられる。従って、私共の研究計画はほぼ達成されたものと考えられる。
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