本研究では、ERM蛋白質の生体内での機能を解析するために、モエシン、ラディキシン、エズリン各々のノックアウトマウスの作製を計画した。モエシン欠失マウスは正常に生まれ、成長する。生体内各器官でのモエシン分布の特徴を考えると、血管などに何らかのフェノタイプが期待されるので、検討を行ったが、はっきりした結果が出なかった。 次にラディキシンノックアウトマウスの作製を行った。このマウスは一見正常にうまれてくるが、血液検査の結果、高ビリルビン血症であることがわかった。ラディキシンノックアウトマウスの肝臓を調べてみると、胆汁が排泄される肝細胞毛細胆管側アピカル膜において、ビリルビンの輸送にかかわる多薬剤耐性トランスポーターであるMRP2 (multi-drug resistance protein 2)のレベルが下がっていることがわかった。そこで、毛細胆管画分を用いたMRP2の抗体による免疫沈降実験、および、in vitroでのMRP2とラディキシンの結合実験を行ってみた結果、MRP2とラディキシンの直接の結合が示された。これらのことは、肝臓において毛細胆管側アピカル膜に局在するラディキシンは、MRP2が毛細胆管側アピカル膜に分布してビリルビンを胆管に排泄するトランスポーターとして機能することに重要な役割を果たすことを示唆する。従って、ラディキシンノックアウトマウスにおいては個体レベルでMRP2の分布・機能が損なわれて、Dubin-Johnson型の高ビリルビン血症が引き起こされると思われる。さらにエズリンのノックアウトマウスを作製し、その機能解析をはじめている。 これらERM蛋白質のノックアウトマウスを解析していくことにより、個体レベルでのERM蛋白質の機能を明らかにしていくことができると思われる。
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