研究概要 |
アルツハイマー病では、形質膜の一部分にβタンパクが異常集積して沈着を開始することから、この膜の特定部分と脂質ラフトとの関係を明らかにしたいと考え、まずは免疫電顕で正常脳の脂質ラフトを形態学的に捉えることを目的に実験を行った。また、βタンパクの代謝に関連するタンパクの局在も検討した。正常ラット(10週齢)を潅流潅流し、脳をVibratomeで40μmに薄切後、(1)flotillin抗体、(2)BACE抗体、(3)Herp抗体などを反応させ、(1)HRP標識第二抗体とDAB反応、または(2)金標識第二抗体(ナノプローブ)と銀増感で可視化した。岩下らの開発した膜コレステロールマーカーであるBCθ(限定分解後ビオチニル化により無毒化したコレステロール結合毒素)は、(1)アビジンHRP+DABまたは(2)アビジン金(ナノプローブ)+銀増感で可視化した。すると、flotillin抗体は、神経細胞などの細胞表面形質膜に沿って点状に陽性反応が散在した。この陽性反応の大きさは50-300nm程度であり、文献の脂質ラフトの大きさに一致した。BCθも類似の所見を示したが、膜がflotillinより多くの場所で染まる傾向があった。コレステロール濃度の高い部位に特異的に結合するBCθとflotillin抗体が同様な染色パターンを示すことから、flotillin陽性の点状構造物が脂質ラフトであることを示した。また、BACEやHerpは、細胞形質膜での分布がflotillinの染色パターンによく似ていた。これらも脂質ラフトに存在する可能性が高いと考えられる。 ApoEのアイソフォーム特異的作用を比較検討するため、HomozygousヒトapoE2(2/2),3(3/3),4(4/4)ノックイン(KI)マウスを用い、永久局所脳虚血負荷24時間後の神経学的症状・梗塞面積・体積を比較検討した。その結果、梗塞体積は4/4KIマウス(mean±SD,27.85±2.71mm3,P<0.001vs.2/2・3/3KIマウス)で有意に2/2(20.96±2.97mm3)・3/3(19.81±3.36mm3)KIマウスより増加していた。この梗塞体積の増加は、各遺伝子導入に伴って発現した解剖学的脳血管の走行、実験中の生理学的パラメーターあるいは虚血負荷後の局所脳血流量の違いによるものではなかった。以上の結果は、ヒトapoEのε4が、脳虚血に対する急性期脳損傷を増悪する実験的証拠を示唆している。
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