研究課題
生物には概日リズムとよばれる、行動や生化学的活動を支配する24時間に近い周期を持つ活動リズムが見い出される。哺乳類の場合、概日時計中枢は脳視床下部の視交叉上核(SCN)に存在し、SCNの日周性を伴った神経活動出力、或いは、液性因子の分泌により末梢組織を支配して概日リズムを形成している。概日リズム形成の分子機構の全体像の解明には、時計遺伝子群や時計により制御されている遺伝子群(clock controlled gene ; ccg)の大規模発現検索系が必須である。個体レベルでの検索を簡便化するために、細胞レベルでの大規模検索系を確立した。まず、Per1の発現を細胞レベルでモニターするためにPer1::luc融合遺伝子を作製した。この融合遺伝子を用いて作製したPer1::lucトランスジェニック動物のSCNスライス培養系では、luciferase活性が約1ヶ月間行動リズムと同じ約24時間の周期で発現振動し、このプロモータがPer1の発現制御に必要十分な領域を有していることが明らかとなった。この動物胚から脳SCNを採取し、SCN由来細胞株を樹立した。樹立した564の細胞株のうち、12株ではPer1::lucの発現概日リズムが安定に8周期以上継続した。また、これらの細胞株は神経細胞マーカーNCAMを発現していたが、グリア細胞マーカーであるGFAPを発現していなかった。最も振幅の大きなPer1::luc発現振動を示す1株では、フォルスコリン刺激により、時間依存的にPer1発現リズムが前進または後退し、その位相反応曲線は、行動リズムが示すものとほぼ同一であった。次に、Per1::lucをラット繊維芽細胞であるRat1細胞に安定に導入した。このPer1::luc導入Rat1細胞では、フォルスコリン、デキサメタゾン、及びフォルボールエステルで減衰性のPer1発現リズムを誘導できた。両細胞株を、中枢及び末梢概日時計細胞のモデルとして、DNAチップによる遺伝子発現プロファイリングを行った。
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