大脳皮質の神経細胞にて興奮性を調節する機構を研究し、細胞内IP3濃度が中等度に増加している時には、活動電位の発火頻度が高い場合に限って神経細胞内でIP3-assisted CICRという細胞内カルシウム遊離が起こり、これがトリガーとなって興奮性が抑制されることを発見した。興味深いことに、この発見は新規コンセプト薬物療法へ実用化展開しうる。神経細胞の過興奮は血管性痴呆やてんかんの原因となる。従来の薬物療法では、脳細胞の活動全体を低減化することで過興奮を抑えてきた。過興奮する細胞を、過興奮している時にだけ特異的に抑える療法があるなら、その方が優れている。上述したIP3-assisted CICRが起こる細胞内環境を常時作っておけば、この療法が実現できる。これは、単一細胞内シグナル(IP3)に依存しているが、単一薬物(細胞外シグナル)に頼る必要は全く無く、多剤を種々の投与量で自在に組み合わせて、効果極大かつ副作用極小を実現するようにできる。細胞内IP3を増加させることが知られている受容体には、コリン性ムスカリン受容体、セロトニン2型受容体、アドレナリン性アルファ2型受容体、GABA-B受容体などがある。これらへのリガンド全てが要素薬物の候補である。一方、幼弱ラットにおいては、このIP3-assisted CICRも過興奮抑制作用も起こらないことが判明し報告した。この年齢依存性の分子機構についてアンカー分子を中心に解析を進めている。また、IP3-assisted CICRとシナプス抑圧との関連性に付いては、細胞内へのIP3投与がシナプス抑圧に促進的に働くことを見つけるなど、解析をすすめている。
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