視線保持機構における小脳片葉求心系の役割

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13480273
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 吉田 薫 筑波大学, 基礎医学系, 教授 (50111373)
• キーワード: 片葉 / 前庭動眼反射 / ゲイン調節 / GABA

研究概要

1.小脳片葉の入力と出力の薬理学的修飾の効果
(1)入力系:片葉に投射するPMTニューロンの活動を薬理学的に修飾し、眼球運動に及ぼす影響を覚醒ネコで調べた。muscimolに加え、本年度はbicucullineを局所注入し効果を比較した。bicucullineは前半規管優位の上向き眼振、muscimolは後半規管優位の下向き眼振を誘発した。緩徐相は指数関数的な経過を示し、PMTニューロン活動修飾が、前庭バランス異常とともに視線保持障害を引起こすことが示された。
(2)出力系:片葉の主な標的である前庭神経核ニューロンを対象とし、GABA抑制の遮断効果を麻酔ラットで調べた。半規管系二次ニューロンの活動をマルチバレル電極を用いて記録し、bicucullineおよびpicrotoxinを電気泳動的に投与し、その影響を解析した。投与により、大多数のニューロンの自発活動は著明に増加し、頭部回転刺激に対する応答の振幅も有意に増加した。一方、応答の位相は殆ど影響を受けなかった。以上の結果から、片葉からの抑制は半規管信号と同相で変化し前庭反射のゲイン調節に大きく寄与することが示唆された。
2.小脳室頂核ニューロンのサッケード適応学習時の活動
サッケードの適応学習課題を遂行中のサル室頂核ニューロンの活動を解析した。サッケードのゲイン減少に伴い、運動開始30ms前から10ms後のニューロン活動が有意に増加し、ゲイン増加に伴いこの期間の活動は有意に減少した。ゲインとバースト活動の変化はよく似た経過を示し、両者の間に有意な相関が認められた。以上の結果から、小脳のサッケード適応への関与が単一ニュ-ロンレベルで強く示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Inaba, N.et al.: "Changes in cerebellar fastigial burst activity related to saccadic gain adaptation in the monkey"Neuroscience Research. (in press). (2003)
• [文献書誌] Kojima, Y.et al.: "Facilitation of saccade adaptation"Japanese Journal of Physiology. (in press). (2003)
• [文献書誌] Iwamoto, Y.et al.: "Saccadic dysmetria following inactivation of the primate fastigial oculomotor region"Neuroscience Letters. 325. 211-215 (2002)
• [文献書誌] Kojima, Y.et al.: "Saccadic adaptation is accelerated by transient reversal of gain change direction"Society for Neuroscience Abstract. 265.2 (2002)
• [文献書誌] Kato, R.et al.: "Effects of GABA receptor antagonists on responses of secondary vestibular neurons to head rotation"Society for Neuroscience Abstract. 168.5 (2002)
• [文献書誌] Nakamagoe, K.et al.: "Vertical eye movement abnormalities induced by injection of bicuculline into the pontine midline region"Society for Neuroscience Abstract. 463.8 (2002)