前頭眼野を電気刺激すると視覚誘導性サッケードを抑える部位があることが知られているが、このようなサッケードの発現を制御ないしは抑制する部位の性質、又其の抑制を起こす中枢神経機構については今のところ未だ十分な知見が得られていない。本研究では、前頭眼野の電気刺激を行い、諸種のサッケードの発現を抑制する部位の再検討を行い、従来知られる抑制より遙かに強い2種類の異なる抑制があることを見いだした。この目的のため、慢性条件下で、視覚誘導性サッケード、記憶誘導性サッケード、固視を行うよう訓練したサルを用い、前頭眼野のICMSを行い、まず抑制野の部位を固定した後、其の抑制の性質を解析した。具体的には、サル前頭眼野におけるサッケードの発現を抑制する部位をFEF内でマップし正確に同定し、2種類の異なる抑制の性質、すなわちサッケードの種々のパラメータ、方向、振幅、記憶誘導性、視覚誘導性、随意性サッケードなどに対する効果、さらに其の部位が、眼球運動の発動を積極的に抑え、視覚対象物の像を中心窩にとどめる機構(固視、Fixation)にどのように関与しているかを検討した。 刺激部位により、同側へのサッケードを抑制する部位と、両側へのサッケードを抑制する部位が分かれて存在することが明らかになった。それぞれの刺激部位では、あらゆる種類のサッケードが10-20マイクロアンペアの低い閾値で強く抑制された。又抑制の潜時の解析から、FEFからの出力側で抑制がかかることが明かとなった。現在、この抑制野から、ユニット記録を行い、種々の固視条件下、及び記憶誘導性、視覚誘導性サッケードタスク時の神経活動を記録し、解析している。サッケード発現に際し、この抑制の解除に小脳からの入力が関与しているかを調べるための準備として、小脳の入出力については基礎的解析を行った。今後この前頭眼野の抑制を引き起こす部位の興奮が、どのような神経経路を通り、どこの中枢神経部位でどのようなメカニズムで抑制を起こすのかを明らかにしたいと考えている。
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