ゲノミックインプリンティングは卵子や精子が形成される過程で、それぞれのゲノムに特異的なメチル化(インプリント)が生じることによって、受精後の胚発生過程におけるある遺伝子の発現が父方(精子由来)あるいは母方(卵子由来)のいずれか一方のアリルからのみに制限される現象である。そのため、哺乳類では、精子あるいは卵子由来のゲノムのみからなる単為発生胚が個体へと発生することはない。このような精子と卵子のゲノム上に生じる性差の機構を明らかにするため、雄性生殖細胞に卵子のインプリントを書き込むことができるか否かを検討することにした。 まず、雄性生殖細胞に卵子型のインプリントを書き込むためには、雄性生殖細胞を、卵子型インプリントの確立するような異所的な環境に暴露する必要があると考え、卵子型インプリントを確立させるためのin vitro系を樹立した。インプリントが欠如し、卵子形成をはじめる前の胎齢12.5日マウス雌胎仔から生殖巣を取り出し、17日間の器官培養と11日間の卵胞培養を行った結果、in vivoと同じタイミングで、インプリント遺伝子(Igf2r遺伝子)をメチル化させることができた。さらに、このin vitro卵子の核は、産仔への発生能を持つことが示されたことから、in vitroで卵子形成完了に成功したことが証明された。 次に、このin vitro系を改変し、卵子型インプリントが確立する時期の成長期卵母細胞核を除去し、これにインプリントが欠如した状態の胎生期雄性生殖細胞を融合させた再構築生殖細胞の培養を試みた。その結果、再構築生殖細胞は、少なくとも10日間生存が可能であり、卵子形成過程で特異的にメチル化されるインプリント遺伝子Igf2rがメチル化されていることが判明した。このことから、雄性生殖細胞に卵子型インプリントを書き込める可能性が強く示唆された。
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