研究概要 |
本研究は,近赤外分光法(NIRS)による筋組織酸素濃度測定値が組織酸素運搬機構といかなる因果関係にあるかを,顕微分光法により細胞レベルで明らかにし,NIRS測定値に対するヘモグロビンとミオグロビンの寄与率など,NIRS測定波形を解釈する上で不可欠な基礎資料を得ることを目的としている. 1.ヘモグロビンとミオグロビンのNIRS測定値への寄与に関する検討 細胞レベルの測定に先立ち,まず体表光プローブを用いて各種運動負荷におけるNIRS測定を行い,筋代謝との関連を検討した.測定装置の時間分解能を0.13秒と高速度に改良し,筋収縮・弛緩に伴う血液量変化から筋灌流血液の局所的酸素飽和度を,筋収縮時の酸素濃度低下率から局所的筋酸素消費量を推定する手法を考案した.被験者6名において3種の負荷で測定を行った結果,低負荷時の筋酸素消費量は運動開始から急増し,約20秒でほぼ一定値に達したが,高負荷では一旦増加した後,数秒で急速に減少し,嫌気性代謝に移行する様子を捉えることができた.また,安静時の筋酸素消費量を動脈阻血法と本法(1回の短時間収縮)の両者で比較すると,後者では3.6倍となった.筋収縮により酸素消費が瞬時に増加した可能性も考えられるが,ヘモグロビンとミオグロビンの酸素結合率の違いに起因する可能性が高く,筋運動時のNIRS測定値にはミオグロビン酸素化状態の変化が強く反映されていることを示唆する結果を得た. 2.ヘモグロビン・ミオグロビン飽和度変化に関する顕微分光測定 小動物の骨格筋を対象に,顕微分光により空間的にヘモグロビンとミオグロビンを分離し,かつこれらの吸光度変化を同時測定することを目的として,購入備品により顕微分光システムを試作した.ウシ血管内皮細胞とマウス腹腔滲出性マクロファージをテスト試料としてPI染色時の蛍光観察を行い,システムの動作確認を行った.
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